主要な研究開発課題

ゼロカーボンエネルギー研究所は、「原子・分子及び原子核に内在するエネルギーの解放と利用」 を命題として掲げた。エネルギーの発生は本質的に分子・原子および原子核の変化によってもたらされる。エネルギー発生に付随する反応生成物は環境に負担を与えないようにしなければならないし、また発生するエネルギーもわれわれが利用するためには電気、あるいは化学エネルギーといった形に変換されねばならない。われわれの使命は、効果的で安全なエネルギーの発生、変換と反応生成物の無害化あるいは資源化を、社会・環境とのつながりの中で整合的に行うことにある。この目的のために次の6つの課題を提案した。

分散型原子力システムの研究

高度複雑な技術から成り立つ原子力の開発において、安全性と経済性という条件を満たすたため必然的に原子炉の大型化に向かわざるを得なかった。軽水炉の開発がこの典型的例であり、高速増殖炉の開発もその路線に沿っていた。しかし最近の地球環境問題の観点では、エネルギー利用効率が良く環境負荷が少ない、小型分散型エネルギー源に関心が向けられている。分散型エネルギーシステムの概念は典型的集中型エネルギー源と見なされている従来の原子力システムの概念と全く反対である。原子力のフロンテイアを拓くことを使命とする本研究所は、新たな挑戦する課題として分散型原子力システムを選び、その成立性を検討する。

核融合炉のシステム 制御と安全研究

トカマク炉は最も早く実現可能な核融合炉として世界的に広く研究が行われてきている。その磁場閉じこめ状態でのD-Tプラズマの臨界条件を達成した現在、核融合炉システムの安全と制御を中心とした核融合炉工学の構築が急がれている。安全に関する大きな問題の一つは高温プラズマのエネルギーの増大に伴いプラズマの挙動を予測することが難しくなってきているところにある。そのため、以下の課題を設定して核融合炉のシステム制御と安全研究に資する。

  • 多重ヘリカル電磁力平衡コイルによる超強磁場の発生
  • 高エネルギープラズマ炉心異常の回避及び制御
  • プラズマ炉心異常に耐える構造・材料の開発
  • 核融合安全研究炉(FSRR)の設計

核エネルギー利用技術の高効率化と高度化

21世紀におけるエネルギーは、人口の急増、エネルギー資源、地球環境、産業/生活廃棄物と密接に関連しており、これらの問題と無関係にエネルギー問題を論ずることはできない。ここでは、エネルギーの安全で経済的な利用技術を開発することにより、これら諸問題の解決に資することを目的とした。

  • 社会受容性のある高効率エネルギーシステム
  • 高効率直接発電
  • 劣化した熱の化学ヒートポンプによる高エクセルギー利用
  • 有害産業廃棄物の分解・再生
  • 核分裂エネルギーの高効率直接発電

原子力システムの安全研究

核分裂炉及び核融合炉を問わず将来の原子力システムは、システムの安全性や蓄積される放射性物質に対する不安のない安定で、高品質のエネルギーを供給することが望まれる。この目標を達成するため、新しい(核分裂や核融合の単独系、加速器駆動も含めた協同系)原子炉システムや新しい核燃料サイクル等の以下に示す研究分野における、包括的な研究を進めている。

  • 将来の原子力システムの安全論理の構築
  • 人間社会や地球環境とより調和した原子力システム概念の構築
  • TRU燃焼、FP消滅及び安全特性をもつ未来型(核分裂、核融合、加速器駆動型)原子炉の研究
  • TRU燃焼、FP消滅に関連する核データベースの構築
  • 環境と調和した新しい核燃料サイクルの研究

加速器で拓く原子力フロンティア

原子力を「原子核反応と粒子線を利用した総合科学技術」と捉え、加速器から得られる粒子線を用いた種々の研究及び大強度粒子ビーム加速器の研究開発を通して、原子力フロンティアを拓いて行くことを目的とする。具体的には、

  • 超ウラン元素及び長寿命放射性核分裂生成物の消滅処理研究
  • 重イオンビーム-プラズマ相互作用研究
  • イオンビームを用いた環境研究
  • 加速器技術の高度化研究

を大目的とした種々の基盤・要素研究を行う。

自ら整合性を有する原子力システム(SCNES)の構築

原子力研究開発の究極の目標は、原子力エネルギーシステムと自然環境ならびに人間社会とを調和させる途を拓くことにある。自ら整合性のある原子力システム(SCNES)とは、この目標のもとに提案されるべき原子炉と燃料サイクルシステム等を含む統合システムである。SCNESは以下の要求条件を同時に満たすシステムである。即ち、1)エネルギーの発生と高効率利用、2)核燃料の生産、3)放射性物質の消滅と閉じこめ(環境へのゼロ・リリース)、および4)固有の安全性の4項目である。本研究はこのような統合システムを構築し、来世紀以降の長期に亘り、単にエネルギー問題に止まらず、人口問題並びに環境問題の解決を目指すものである。この考え方を実現する上で必要な現象論的な検討およびシステム概念構築を行い、工学的成立性を検討してシステムの具体像を提示する。