最新の研究成果

溶融塩炉MSREでの反応度投入実験報告書(1970年作成)の間違いを修正
― 今後の解析コードの検証に道を拓く ー

2022年2月8日

要点

  • 溶融塩炉で実施された反応度投入実験の報告書記載間違いを修正
  • 報告書の記載がなぜ間違っているかを詳細に説明
  • システムコードを用いて修正した値での核熱結合解析を行い、良い一致が得られた

概要

従来、アメリカオークリッジ国立研究所(ORNL)で溶融塩炉[用語2]MSRE[用語1]を用いて行われた実験結果を、核熱結合解析した際に再現できなかった問題にメスをいれ、実験解析報告書に間違いがあることを突き止めた。なぜ間違っているのか、どうして間違ったのかの理由を明確にし、間違いを修正した条件での解析を行って、実験結果が再現できることを示した。これによって、溶融塩炉の設計に利用できる可能性のある解析コードの検証が行えた。

研究の背景

ORNLで運転されたMSREでは、出力運転中に制御棒を引き抜いて正の反応度[用語3]を原子炉に加える実験を1960年代に実施した。実験中の原子炉出力は、反応度投入直後に一時的に上昇したが、原子炉の固有の特性によって初期出力まで降下し落ち着く状況を示した。このような特性は、軽水炉等の現在運転されている原子炉にはないものであり、溶融塩炉固有の安全特性[用語4]である。この実験結果は、きわめて重要な結果であり1, 5, 8 MWで行った結果がORNL報告書として公開されている。解析コードで実験結果を再現しようすると、5MWの時だけ再現でき、1MW,8MWの挙動はなぜか再現できなかった。このため、この重要な実験結果に関して国際会議などで報告している研究者は、2,3人であり、きわめて異常な状態が50年以上続いてきた。

現在、各国で溶融塩炉の開発競争が始まっている。このため、原子炉の特性を評価するための解析コードの精度評価が必要になり、ORNLで行われた反応度投入実験が着目される。解析しても再現できない問題を解決すれば、溶融塩炉の開発に弾みがつくと考えたことが研究の動機である。

実際にシステムコードで実験解析を行ってみると、これまでの研究者の結果と同ように5MW以外の実験結果を再現できなかった。このため、このような状況になる原因を考えた。私は、3種類の実験が行われたことに着目して、おそらく慌て者の若い研究者が数値を取り違えたのではないかと考えた。取り違えは、3種類の出力に対して記載していた反応度の大きさの表が出力順に書かれていた場合、出力を大きい順にするか小さい順にするかで間違えたと考えた。これは、1MWと8MWの投入反応度の大きさを入れ替えることに相当する。

研究成果

解析には、軽水炉などのシステムコードとして有名なRELAP5-3Dコードを利用した。このコードを利用するためには、流体の密度、粘性係数、熱伝導率、比熱などの物性値が必要であり、溶融燃料の組成と従来の物性値研究から、温度の関数としての式を導出したうえで、アイダホ国立研究所が提供している解析コードで、溶融塩の物性値を発生させて利用した。図1は、MSRE炉の炉心から熱を除去する空気冷却器に至る経路を模擬した計算モデルである。原子炉の熱輸送系を炉心から空気徐熱している冷却器まで忠実にモデル化することが必要である。実際に反応度を入れ替えて核熱カップリング解析[用語5]すると、すべてのケースで実験結果は良い精度で解析できることが分かった。図2は、多くの研究者が解析に失敗している8MWの原子炉出力での実験解析の結果である。これまで、著者と同じようなことを想定して解析を行ったZanetti等の結果も記載している。ORNLモデルは、実験後ORNLで計算機を用いて実施した解析であり、反応度を取り違えない状態で解析しているため、当然実験結果を説明できている。


図1 RELAP5-3Dを用いたMSRE溶融塩炉の解析体系

図2 8MW出力で13.0 pcm δk/kの反応度をステップ投入した場合の実験結果と本解析結果の比較

用語説明

[用語1] MSRE:
Molten Salt Reactor Experimentの略であり、オークリッジ国立研究所で開発され、1964年から4年間運転された溶融塩熱中性子炉
[用語2] 溶融塩炉:
溶融した燃料塩を炉心に有し、高速中性子スペクトラムから熱中性子スペクトラムを利用するものが考案されている。
[用語3] 反応度:
原子炉の出力状態を変えるために、制御棒などを用いて原子炉内の反応を増加させたり抑えたりする時の程度を表すことばである。
[用語4] 固有の安全性:
原子炉が人間の介在なく常に安全な方向に制定しようとする特性であり、事故を起こそうとしても安全な状態に戻る。これまでの原子炉では、大きな反応度を原子炉に加えると暴走し、過酷事故が生じる。
[用語5] 核熱カップリング解析(immediate early gene; IEG):
原子炉の核特性と熱水力特性を同時に考慮しながら解析する

論文情報

掲載誌 :
Nuclear Engineering and Design, 389, (2022), 111669.
論文タイトル :
Validation of neutronics and thermal-hydraulics coupling model of the RELAP5-3D code using the MSRE reactivity insertion tests
著者 :

Hiroyasu MOCHIZUKI

DOI :
https://doi.org/10.1016/j.nucengdes.2022.111669