最新の研究成果

NMB4.0:統合核燃料サイクルシミュレーターを開発し、無償提供開始!
-先進エネルギーシステム開発戦略のための基盤プラットフォームを構築-

2022年3月15日

要点

  • 将来の原子力利用を含むエネルギーシステム開発戦略の立案には、エネルギー需給予測や新技術の導入効果、廃棄物量といった物量の評価・予測が不可欠
  • 東京工業大学ゼロカーボンエネルギー研究所と日本原子力研究開発機構は、高速・汎用・柔軟なNMB4.0の開発に成功し、これを無償公開。(公開HP  https://nmb-code.jp)
  • ユーザー・開発者を分野を超えて募集し、国内外の標準シミュレーターを目指す。

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 ゼロカーボンエネルギー研究所(東工大ZC研)の中瀬正彦助教、岡村知拓博士3年、竹下健二教授らの研究グループは、日本原子力研究開発機構(原子力機構)の西原健司博士らの研究グループと共同で、将来の原子力利用シナリオのシミュレーションコードNMB4.0を開発し、同研究所HPから無償公開を行った。

我が国の将来のエネルギー戦略立案のためには各電源の長短所を定量的に評価する必要がある。特に、原子力エネルギー利用においては、将来どのような炉型や核燃料サイクル[用語2]を開発し利用すべきかを見極めるために、将来予測を行い、必要となる資源、プラント規模、核燃料サイクル規模、廃棄物発生量などの物量を見積もる必要がある。これまで国内では将来予測のためのシミュレーションコードはいくつか開発例があるが、公開されておらず戦略立案に必ずしも十分に反映されてこなかった。そこで、将来のエネルギーや原子力戦略を闊達に議論するための基盤を整備するために、ZC研と原子力機構はNMB4.0を共同開発し、それを無償公開した。NMB4.0は高速な計算アルゴリズムを備え、様々な炉型と核燃料サイクル(燃料製造、再処理、処分など)の工程を含み、また、柔軟に組み合わせやパラメータを設定可能であり、将来想定される多くのシナリオを解析可能である。今回の公開を契機に、広くユーザー・開発者を募集し、国内外の標準シミュレーターとし、更には、経済性や環境負荷などの評価機能の充実や、他電源を含めエネルギー分野横断的な評価研究の実現に向け研究プラットフォームを構築することを目指している。

背景

現在、我が国では将来の原子力利用のための様々な炉型(高速炉、軽水炉、小型炉他)や、廃棄物の負荷を低減する再処理技術の開発が進められている。これら先進技術を実際に社会実装するためには、如何に将来の原子力利用に貢献できるのか、経済性やリスク、実現可能性などの多面的な分析が必要である。そこで、様々な技術の導入を仮定した将来シナリオを定量化・見える化する方法を「核燃料サイクルシミュレーション」と呼び、それに必要なコードを核燃料サイクルシミュレーションコード[用語3]と呼ぶ。

これまで、国内には公開された汎用的なシミュレーションコードは整備されておらず、海外でも多くの優れたコードは非公開である。しかし、上記のように様々な将来技術を相互比較するためには、共通のシナリオ・コードでの解析を通じた深い研究が不可欠であり、非公開であることが大きな障害となっている。また、カーボンニュートラルに向けてエネルギーを取巻く環境が大きく転換している中で、多様な原子力利用の将来シナリオを柔軟かつ包括的に分析し、それを政策や研究開発に活用していくことが求められている。そこで、東工大ZC研と原子力機構はこのような問題意識の基、高速・汎用・柔軟なコードの開発・公開することを目指した。

Figure 1 NMBコードのデザインイラスト(作成者:yÅoki https://www.instagram.com/aomushi_collage/

図1 NMBコード[用語1]のデザインイラスト(作成者:yÅoki https://www.instagram.com/aomushi_collage/

成果

従来の核燃料サイクルシミュレーションコードでは、ウランやプルトニウムなどの20~30種類程度の核物質の流れを解析することが主流であった。一方、現在の核燃料サイクルシミュレーションへの解析ニーズとして放射性廃棄物の発生や処分を正確に評価ことが求められており、そのためにはウランが核分裂して生成される150種類程度の核分裂生成物の解析が必要であった。従来のコードではその核分裂性核種は計算負荷の観点から扱われていない。一方、NMBコードでは、多種類の物質の原子炉内の燃焼変化を解析する燃焼方程式を高速かつ十分な精度で解く解法(OEM; Okamura explicit method)の開発に成功したことで、核分裂生成物を解析可能とした。また、従来解法では数時間を要する解析が、NMBコードでは数分で終わるようになり、解析できるシナリオが多様化した。

NMBコードでは原子力発電に関わるほぼ全ての工程を解析することができる(図2)。原子炉については、現代の主力炉である軽水炉の他、将来型炉であるナトリウム高速炉、ガス炉、加速器駆動システム等の炉心データベースを整備した。核燃料サイクルについては、他の解析コードでは、上述した核分裂生成物の解析の観点で、あまり扱われていない放射性廃棄物の地層処分について充実した解析モデルとデータベースを開発した。地層処分場の規模を評価する際には、処分場の温度上昇の解析が必須であるが、多くのコードでは評価されていない。NMBコードでは、我が国で検討されている多くの地層処分場設計に対してコード内部で温度評価が可能なデータベースを備えており、現実的な処分場規模が評価可能である。

我が国の原子力利用の将来像は、軽水炉リプレースの不透明さ、高速炉開発の遅れ、地層処分地選定の困難さなどにより、非常に見通しが悪い。例えば2050年の原子力利用像について、国によるエネルギー基本計画でも明確に示されていない。そのため、原子力利用の撤退や継続、高速炉導入時期の変化など多彩なシナリオを解析できるようなコード設計とした。さらに、様々な状況に対応できるよう、パラメータを固定化することなくモデル式で記述している。例えば、高速炉の新燃料に含まれるプルトニウムの量は、プルトニウムの発生元によって大きく異なるが、適切に決定できるようモデル式を組み込んだ。また、放射性廃棄物をガラス固化する際に含むことのできる放射性物質の量は、放射性廃棄物の組成によって異なるが、妥当な評価を可能とするモデル式を作成した。このような工夫により、多くの将来シナリオの解析を柔軟に実施できるようにした。

以上のように高速・汎用・柔軟な核燃料サイクルシミュレーションコードNMB4.0を開発し、国内外における標準コードとなり得るよう、東工大ZC研のホームページより無償公開することとした(公開HP https://nmb-code.jp)。

図2 NMB4.0 開発チーム(左から  岡村知拓(ZC研)、中瀬正彦(ZC研)、西原健司(JAEA)、方野量太(JAEA))

図2 NMBコードの解析に含まれる核燃料サイクル

今後の展開

今回の公開を契機に、広くユーザー・開発者を募集する。ユーザーとして、大学、研究所、メーカー、電力事業者、などを想定し、持続的な原子力利用のために、将来型原子炉および核燃料サイクル技術の研究開発や実装戦略の立案に役立てて頂きたい。また、国内の核燃料サイクルシミュレーションコード開発は、小規模の研究グループで独立に行われているため、多くの開発者の力を集結し、より優れたコードへの改良を進める(図3は現在の開発メンバー)。更には、経済性や環境負荷などの評価機能の充実や、他電源を含めエネルギー分野横断的な評価研究の実現に向け研究プラットフォームの役割を果たすよう、発展を続ける。

Figure 1 NMBコードのデザインイラスト(作成者:yÅoki https://www.instagram.com/aomushi_collage/

図3 NMB4.0 開発チーム(左から 岡村知拓(ZC研)、中瀬正彦(ZC研)、西原健司(JAEA)、方野量太(JAEA))

 

用語説明

[用語1] NMBコード :
ZC研と原子力機構が共同開発した核燃料サイクルシミュレーションコード。Nuclear Material Balance (核物質収支)の略。
[用語2] 核燃料サイクル :
原子炉の前段および後段の工程を指す。ウラン採掘・濃縮・精製、燃料製造、使用済燃料貯蔵、使用済燃料再処理、放射性廃棄物処分などが主な工程である。
[用語3] 核燃料サイクルシミュレーションコード :
核燃料サイクルおよび原子炉の各工程の物質処理量や、発電量、燃料本数、廃棄物本数などを計算するプログラム。

文献

  • Tomohiro Okamura, Ryota Katano, Akito Oizumi, Kenji Nishihara, Masahiko Nakase, Hidekazu Asano and Kenji Takeshita, "NMB4.0: development of integrated nuclear fuel cycle simulator from the front to back-end", EPJ Nuclear Sci. Technol., 7, 19, (2021). DOI: https://doi.org/10.1051/epjn/2021019
  • 岡村知拓, 大泉昭人, 西原健司, 中瀬 正彦, 竹下 健二, "核分裂生成物のマスバランス解析のための核種選定", JAEA-Data/Code 2020-023, 2021.
  • 岡村知拓, 西原健司, 方野量太, 大泉昭人, 中瀬 正彦, 竹下 健二, "NMB4.0ユーザーマニュアル", JAEA-Data/Code 2021-016, 2022.