注目論文の解説

アメリシウム243の高速中性子捕獲反応の測定

2022年6月14日

要点

  • 大強度陽子加速器施設(J-PARC)の中性子核反応測定装置(ANNRI: Accurate Neutron-Nucleus Reaction Measurement Instrument)に設置された中性子フィルターを用いてアメリシウム243(243Am)の中性子エネルギー23.5keVに対する中性子捕獲断面積を測定した。
  • 243Amの中性子捕獲断面積は放射性核廃棄物の核変換システムの開発で必要とされる中性子核データである。今回得られた測定データは核変換システムの開発に活かされる。

概要

J-PARCの物質・生命科学実験施設(MLF)の核データ測定用ビームラインANNRIに設置された中性子フィルター[用語1]を用いて、中性子エネルギー23.5keV付近における243Amの中性子捕獲断面積[用語2]を測定した。測定では、J-PARC/MLFの核破砕中性子源[用語3]からのパルス中性子ビームを鉄の中性子フィルターにより準単色化させた。得られた中性子ビームを用いて飛行時間法(TOF)法[用語4]により測定を行った。 過去の測定データに比べて高精度で断面積を測定することができた。

研究背景と目的

原子力発電所から排出される高レベル放射性廃棄物の減容・環境負荷低減させる核変換システムの研究が行われている。核変換システムでは、中性子核反応を利用して長寿命の放射性核種を短寿命・安定核種に変換させる。この核変換システムの開発には、長寿命放射性核種の中性子との反応断面積のデータが必要とされている。しかし、現状の長寿命放射性核種の断面積データは要求精度を十分に満たしておらず、核データの精度向上が核変換システムを実現する上で課題の一つとなっている。

今回、長寿命放射性核種の一つである243Amの中性子捕獲断面積の高精度化を目的とした。核変換システムでは、keV領域の断面積データが必要とされている。しかし、243Amの過去の測定データは少なく、測定値間で不一致が見られ、核変換システムに必要な要求精度を満たしていない。そこで、23.5keV付近で準単色化された中性子ビームを用いて測定を行った。

研究の方法

測定は、茨城県東海村にある大強度陽子加速器施設(J-PARC)で行った。J-PARCの物質・生命科学実験施設(MLF)の核破砕中性子源からのパルス中性子ビームを鉄フィルター(直径10cm、厚さ20cm)により準単色化させて測定に用いた。測定はJ-PARC/MLF内の中性子ビームラインの一つ中性子核反応測定装置(ANNRI)の飛行距離27.9 mの位置にアメリシウム試料を設置し、ANNRIのNaI(Tl)検出器を用いて中性子捕獲反応から放出される即発ガンマ線を検出した。中性子エネルギーは飛行時間法により決定した。197Auの中性子捕獲断面積を基準として、243Amの中性子捕獲断面積を決定した。

研究の成果

測定の結果得られた243Amの中性子捕獲断面積を図1に示す。今回の結果は、1980年代に測定された2つのデータセットWestonら及びWisshakらの測定値と比べて大きい値と鳴った。また、ENDF/B-VIII.0の評価値とは誤差の範囲内で一致した。今後は、今回のFeフィルター以外のSi, Crフィルターを用いてkeV領域の捕獲断面積を決定する。

本研究は文部科学省原子力システム研究開発事業JPMXD0217942969の助成を受けたものである。

図2 NMB4.0 開発チーム(左から  岡村知拓(ZC研)、中瀬正彦(ZC研)、西原健司(JAEA)、方野量太(JAEA))

図1 Am-243の中性子捕獲断面積

用語説明

[用語1] 中性子フィルター :
特定の共鳴エネルギーの低エネルギー側で中性子透過率が大きくなること(中性子反応確率が小さい)を利用した中性子フィルターである。鉄を用いた中性子フィルターでは、23.5keV 付近で局所的に中性子透過率が大きくなり、そのエネルギーを持った準単色化された中性子ビームを利用することができる。
[用語2] 中性子捕獲反応断面積 :
中性子が原子核に吸収されそのまま相手原子核の一部になる原子核反応を中性子捕獲反応という。入射粒子が原子核反応を起こす確率を表す物理量を断面積という。中性子のエネルギーによって中性子反応断面積は変化する。
[用語3] 核破砕中性子源 :
GeVオーダーの高エネルギー粒子が原子核に衝突すると原子核をバラバラに分解する核破砕反応が起きる。核破砕反応からは大量の中性子が発生するため効率的に中性子を発生させる手段として利用されている。核破砕中性子源は高強度中性子ビームを生成するものとして世界各国で運転・建設が進められている。
[用語4] 飛行時間法 :
中性子のエネルギーを計測する手法。中性子をある一定距離飛行させ、その飛行時間を計測することで中性子エネルギーを決定する。

論文情報

掲載誌 :
Journal of Nuclear Science and Technology
論文タイトル :
Measurements of the neutron capture cross section of 243Am around 23.5 keV
著者 :
Yu Kodama1), Tatsuya Katabuchi1), Gerard Rovira2), Atsushi Kimura2), Shoji Nakamura2), Shunsuke Endo2), Nobuyuki Iwamoto1), Osamu Iwamoto1), Jun-ichi Hoi3), Yuji Shibahara3), Kazushi Terada3), Hideto Nakano1), Yaoki Sato1)
DOI :
https://doi.org/10.1080/00223131.2021.1943557
所属機関 :
1) Laboratory for Zero-Carbon Energy, Institute of Innovative Research, Tokyo Institute of Technology
2) Department of Nuclear Science and Engineering Directorate, Japan Atomic Energy Agency
3) Institute for Integrated Radiation and Nuclear Science, Kyoto University