最新の研究成果

溶融塩高速炉で使用する熱交換器の研究 - 過去の知見に学ぶ -

2022年8月22日

要点

  • 溶融塩高速炉の熱交換器[用語4]は、燃料部の体積を極力小さくする必要があり、従来の高速炉の熱交換器と形式を変える必要がある
  • システムコードで熱交換器を含む熱輸送系を解析する場合の熱伝達率を明確にする
  • 超臨界二酸化炭素を作動流体としたPCHE熱交換器を用いての実験結果を利用してCFD[用語1]コードで熱伝達率を評価した
  • 検証された熱交換器モデルをシステムコードに適用し、溶融塩炉の全体熱輸送系解析を可能にした

概要

過去に東工大の原子炉研究所で実施されたコンパクト熱交換器の実験結果を利用して計算流体力学(CFD)コードの解析モデルを検証し、同様のモデルを用いた解析に基づいて溶融塩高速炉で用いる熱交換器を提案した。提案した熱交換器を熱輸送体系に組み込んで解析するため、システムコードに組み込まれている伝熱相関式と提案している熱交換器の熱伝達率の関係を調べ、125MW徐熱するためのチャンネル本数を評価した。

研究背景

溶融塩高速炉の特徴の一つに、超ウラン元素[用語2]TRUの効率的な燃焼がある。この特徴を十分に発揮させるためには、炉心外の熱交換器などに含まれる液体燃料体積を炉心内の燃料体積に比べてできる限り小さくする必要がある。体積比が同じ場合でも、実時間で100日間の照射時間は、実際には50日になってしまう。原子炉で発電だけをすることが目的の場合には、従来技術のシェルアンドチューブ型の熱交換器を用いることができるが、炉心外の燃料体積が炉心の数倍も大きくなり、炉心で燃料が照射される時間がさらに短くなってしまう。このため、体積を小さくできる板状の熱交換器の採用を検討した。このタイプの熱交換器を利用する理由は他にもある。溶融塩燃料の熱伝導率が低いため、結果的に熱伝達率が低下し、この弱点を補う必要がある。熱交換器の伝熱管長さを長くすれば、総括熱通過量は向上するが、原子炉容器内にすべての関連機器を設置する設計とするため、熱交換器を長くすることは難しい。

以前、ゼロカーボンエネルギー研究所(旧原子炉工学研究所)では、超臨界二酸化炭素[用語3]を作動流体とした、コンパクトな熱交換器(PCHE[用語5])の研究を実施しており、実験の一つに熱伝達が良好なジグザグ流路を用いた熱伝達率と圧力損失を計測していた。この結果を、計算流体力学(CFD)コードであるFLUENTで解析することで数値モデルを検証し、同様なモデルを新たに設計する熱交換器に使えば、信頼性の高い熱交換器が設計できると考えた。

研究の成果

以前実験を行った先生方にデータを利用することの許可を得て、実験体系のCFDモデルを図1に示すように作成した。FLUENTコードで乱流モデルなどを検討して解析したところ、熱伝達率と圧力損失の計測値を良い精度で再現することができた。また、前世紀の中頃に計測されていたなめらかな直管の圧力損失係数のデータを利用して、解析モデルが妥当なものである事の検証が行えた。

この実験結果より、ジグザグ流路では、熱伝達は良好であるが、圧力損失が大きくなる結果が得られており、圧力損失を減少させる工夫が必要であることが提案されていた。そこで、熱交換器の流路を実験で採用していた高価なエッチングではなく、プレス加工で製作できるサイン曲線状のものとすることを考えた。流路の形状と、伝熱要素の計算に用いたモデルを図2に示す。この形状の場合、熱伝達はジグザグとほぼ同じであり、圧力損失係数を約半分にすることができる。

FLUENTで解析された結果から、実機の熱交換器体系を評価するとともに、解析で得られた熱伝達率をシステムコードRELAP5-3Dに適用して、実機の熱交換器体系を評価した。両結果はほぼ一致し、原子炉熱輸送系全体をシステムコードで解析できる見通しが得られた。

通常の板状の熱交換器では、それぞれの板状の流路は、パッキンを挟んで漏洩を防ぐようになっているが、提案する熱交換器は、核燃料を扱うため、厚さ0.5㎜の鋼板をプレス加工した後は、必要な枚数を重ねて拡散溶接[用語6]して一つの要素機器とする必要がある。図2に示すような形状の流路が、同じ面に約100チャンネル、0.5㎜の板を挟んで約120枚重ねて製作する。これにより約6000組の伝熱流路が形成され、伝熱長約4mの場合125MWの熱除去ができる熱交換器となる。

図1 FLUENTコードを用いた熱交換器実験体系解析モデル i) 流路断面メッシュ形状、ii) 側面メッシュ形状、iii) 全体メッシュ形状

図1 FLUENTコードを用いた熱交換器実験体系解析モデル
i) 流路断面メッシュ形状、ii) 側面メッシュ形状、iii) 全体メッシュ形状

図2 採用したサインカーブを有する熱交換器流路形状  i) 流路断面メッシュ形状、ii) 側面メッシュ形状、iii) 全体メッシュ形状

図2 採用したサインカーブを有する熱交換器流路形状
i) 流路断面メッシュ形状、ii) 側面メッシュ形状、iii) 全体メッシュ形状

用語説明

[用語1]CFD :
Computational Fluid Dynamicsの略であり、流体力学の基礎式を数値的に組み込んだ解析コードで、種々の乱流などの流れを再現できるようにしている。
[用語2]超ウラン元素 :
Transuranic materialのことであり、原子炉内でウランを利用した場合に、ウランの原子番号である92番を超える元素が構成される。これらの多くは、核廃棄物となる。
[用語3]超臨界二酸化炭素 :
二酸化炭素を31.1℃、7.38 MPa以上の高圧の状態にした場合、気体でも液体でもない状態になり、近年いろいろな目的でそのような状態の流体が利用されることがある。
[用語4]熱交換器 :
原子炉などで発生した熱を次の熱輸送系等に伝えて発電などが行えるようにする上で必要な機器である。エネルギーを扱うシステムでは、ほとんど必ずこの機器を利用して熱を伝えることになる。
[用語5]PCHE :
Printed Circuit Heat Exchangerの事であり、エッチング技術で熱交換器の流路を鋼板の表面に構成し、鋼板を重ね合わせて溶接することで熱交換器として製作している。
[用語6]拡散溶接 :
材料に高い圧力と熱を加えて材料同士を接合する技術のこと。通常では接合できない材料の溶接などに使用されている。

論文情報

掲載誌 :
Nuclear Engineering and Design, 396, (2022), 111900.
論文タイトル :
Study of thermal-hydraulics of a sinusoidal layered heat exchanger for MSR
著者 :
Hiroyasu MOCHIZUKI
DOI :
https://doi.org/10.1016/j.nucengdes.2022.111900