注目論文の解説

Perspective論文 "How does chemistry contribute to circular economy in nuclear energy systems to make them more sustainable and ecological?"
-核燃料サイクルにおける先端無機錯体化学研究の位置づけと果たすべき役割を提唱

2023.08.02

要点

基本的に核燃料サイクルは循環型経済の概念に従うものであるはすであるが、いくつかの課題によってその実現は困難となっている。このPerspective論文では、それら核燃料サイクルにおける課題を化学がいかに解決し得るか、また我々アカデミアの研究者がどのような役割を担うべきかについて議論した。

概要

原子力発電は現在のエネルギー消費社会を支えるベースロード電力を供給するための最も現実的かつ実証済みのカーボンフリーエネルギー源のひとつである。発電後であっても、使用済み核燃料の大部分はウランやプルトニウムなどのリサイクル可能な核燃料物質で構成されていることから、原子力エネルギーシステムは基本的に循環型経済の概念に従うと期待される。しかし、実際には(1)核燃料物質の資源確保、(2)劣化ウランの処遇、(3)高レベル放射性廃棄物の処理および処分などの課題により、それほど単純でないことも事実である。このPerspective論文では、化学がこれらの課題解決にどのように貢献し得るかについて、海水からのウラン回収技術や核燃料物質選択的沈殿法(NUclear fuel MAterials selective Precipitation, NUMAP法)に基づく簡易・高汎用次世代再処理技術の開発、余剰電力貯蔵用ウランレドックスフロー電池開発の現状と課題、現行路線である地層処分と整合しかつ核変換による将来的な廃棄物低減も見据えたマルチオプションを許容する放射性廃棄物処理について、著者の研究開発の紹介を交えながら最近の研究動向について概説し、アカデミアにおける基礎化学者がどのような役割を担うべきかについて述べたものである。

本論文は、2023年8月7日付で英国王立化学会の査読付学術誌Dalton TransactionsのPerspectiveとして掲載され、52巻29号の表紙を飾った。また、同誌の2023 Frontier and Perspective articlesに収録されるとともに、無機化学分野において興味深く顕著であると評されたTop 10%の研究としてDalton Transactions HOT Article Collectionに選出された。

 

Reprinted with permission from Royal Society of Chemistry (Copyright 2023)

論文情報

掲載誌 :
Dalton Transactions
論文タイトル :
How does chemistry contribute to circular economy in nuclear energy systems to make them more sustainable and ecological?
著者 :
Koichiro Takao
所属 :
東京工業大学 科学技術創成研究院 ゼロカーボンエネルギー研究所
DOI :

https://doi.org/10.1039/D3DT01019H