成果報告書

令和元年度 経産省プロジェクト
「革新的溶融塩高速炉システム構築」成果報告書
FY2019 METI Project Report “Establishment of an Innovative Molten Salt Fast Reactor System”

委託事業の内容

図1に示す塩化物溶融塩高速炉のシステムに関して以下の3項目を研究した。

  1. 核データの整備(千葉 敏) 溶融塩炉で用いられる塩素等、従来炉で用いられていない物質の核データは精度が悪い。今年度は調査を行うとともに、これまで東工大で蓄積してきた知見と併せて溶融塩炉用の核データ評価を遂行可能な手法の調査及び導入を行った。35Clの中性子捕獲断面積に共分散評価結果を図2に示す。
  2. 炉心熱水力及びプラント動特性と安全性(望月弘保) CFD解析コードを用いて、炉心内部の定常状態温度分布を評価し、炉心内部が適切な温度になっているかを確認した。また、CFDコードで、炉心全体を核熱カップリングして解析する手法を調査した。さらに、保有している1次元システムコードRELAP5-3Dの流体物性値を実際に使用する溶融塩燃料および溶融塩冷却材が扱えるように改良し、得られた流体物性を反映して解析できるようにした。核特性から得られた動特性パラメータと反応度係数を適用して、過渡変化、事故の解析を行った。原子炉が全電源を喪失し、スクラムも行われない状態(ULOF)を想定しても、図3に示すように負の温度係数によって出力が崩壊熱レベルに自然に移行し、溶融塩高速炉が固有の安全性を有していることを示した。またポンプの回転数を変化させ炉心の燃料温度を変化させる事による負荷追従運転解析を行い、原子炉の出力が制御できることを示した。
  3. 核拡散抵抗性評価(相楽 洋) 第4世代原子力システムの核拡散抵抗性評価手法、及び日米で開発を進めている不正利用価値(Material Attractiveness)評価手法を活用し、溶融塩燃料の不正取得、処理、使用に対する物質固有の核拡散抵抗性を定量化する手法を調査・研究した。この手法を用い、溶融塩原子炉内の核不拡散上の潜在的リスク情報の定量化・可視化を試行し、Material Attractivenessに基づく合理的な保障措置設計要求を明確化し、保障措置のための技術への要求精度情報を導出し、保障措置技術開発ロードマップを示した。

委託事業の内容

溶融塩炉特有の物質の核データ整備の実施

  • モンテカルロコードによる臨界体積の計算と、動特性パラメータの評価
  • CFD計算による炉心形状の検討 ・原子炉が固有の安全性を有していることの証明
  • 負荷追従運転が容易に行えることの証明 ・核不拡散上の潜在的リスクを溶融塩燃料とMOX燃料との比較評価を行い、溶融塩燃料は同等もしくはより低くなることの評価

委託事業の効果

これまで日本では、溶融塩高速炉に関して研究を本格的に実施したことがなかったため、原子炉の特性等に関して不明な事が多かった。本事業によって、溶融塩高速炉が非常に優れた安全性や信頼性、機動性、核不拡散性を有している事が判明した。コンソーシアムの他のチームの結果と合わせ、安全に放射性廃棄物を燃焼できる優れた原子炉として設計する事ができるとの見通しが得られた。また、これまで動力炉では避けてきた塩化物を用いるため、燃料の物性や溶融燃料塩と材料の相互の作用に関して多くの研究を行う事の必要性が判明した。


図1 研究対象とした塩化物溶融塩炉概要


図2 35Cl中性子捕獲断面積の共分散


図3 ULOF時のプラント挙動